保険金が払える事故なのか払えないのか?人身傷害保険の微妙なところ・・・
人身傷害保険というのは、いわゆる「自動車事故」で死亡またはケガをした(後遺障害の残存を含む)時に、被保険者の保護を目的として作られたものですが、その運用、約款解釈を巡って時として保険金支払いの対象になるのか否かを判断するための調査依頼がけっこうあります。
保険会社の担当者の悩むケースがままあり、とても担当者レベルでは判断できないとなると本社に照会したり弁護士に相談するなど、なかなか大変な事態になります。
こんな事故は人身傷害保険で支払ってもらえるのか・・・
そもそも、人身傷害保険の保険会社の支払責任はどのようなものであるかというと、
傷害保険の基本的3要素である「急激」「偶然」「外来」(急激かつ偶然な外来の事故)はともかくとして、
- 被保険自動車の運行に起因する事故
- 被保険自動車の運行中の、飛来中もしくは落下中の他物との衝突、火災、爆発または被保険自動車の落下。ただし被保険者が被保険自動車の正規の乗車装置または当該装置のある車内に搭乗中の場合に限る。
とあります。
一見わかりやすそうで、いや、こんな抽象的な表現でいいのか?と思う部分もあるのですが、よくあるのが「正規の乗車装置」はともかく「当該装置のある車内に搭乗中」と「被保険自動車の運行に起因」するに関係する事故といえます。
「車内に搭乗中」については、搭乗者傷害保険でもよく問題になりますが、どこまでの範囲を搭乗中とみなすのか?にあり、大雑把に言ってしまうと車内に身体の一部が残っていた場合は搭乗中とみなすケースが多いようです。
たとえば車両から降りようとして片足を地面に付けたところ、足が滑って転んでケガをしたなどという場合は支払い対象になると判断されることがほとんどです。したがって完全に車両内に搭乗中でなくても構わないという部分について、果たして搭乗中にあたるのか否かを調べて欲しいとなるわけです。
さらに複雑なのが、「被保険自動車の運行に起因する事故」にある「運行に起因」が問題で、「運行」だから動いている状態での事故じゃないか?と簡単に済ませるわけにはいかないシーンがこれまた多いので困るわけです。
というのは、解説書には、運行については自賠法(自動車損害賠償保障法)の定義に従うとあり、自動車の発進、走行(必ずしも原動機に走行に限るのではなく、下り坂などを惰力で走行する場合も含む)、停止中のほか、ドアの開閉やクレーン車のクレーンなど自動車の各種装置の使用または操作を含まれる。などとあり、一体なんやねん!となってしまうことになります(笑)
そんなわけで、実に様々な事故があり複雑なケースでは前述のように調査依頼が来ることになりますが、一つ二つ事例を紹介してみましょう。
契約者(被保険者)は、深夜に知人宅に行こうと自宅を出発したが途中で知人の帰りが遅くなることに気付いて、時間調整のために路肩に車両を停止させたが、車内で使用済みのライター用ガスボンベを捨てるにあたってボンベからガスを抜こうとアイスピックのようなものでボンベに穴をあけガスを抜く作業をした。
車内には使用済みのボンベが何本もあったため、それらのすべてのガスを抜いたが、狭い車内で密封された状態でガス抜きをやったことから車内にはバスが充満することとなり、そこに運悪くタバコを吸おうとしてライターを点火したところ爆発!
大きな火傷を負うこととなった。という事故。
これはまあ、知人宅に行く途中での事故であり、事故場所も出発地から目的地までの経路の途中であったことと、事故後の処理や受診状況にも問題はなかったため、保険金支払いとなりましたが、どうして閉め切った狭い車内でガス抜きなどをしたのか?との問いに、自宅内ではしょっちゅうやっていたのでなにも意識しなかったとの回答には絶句(笑)
もう1件は、
あるイベントを観るために目的地に到着したが、駐車場に入れる前に会場の様子を見るために車両から降りて会場に向かって歩き始めたが、手ぶらで出てしまい忘れ物をしたことに気付いたため、その忘れ物を取るために車両に戻ってドアを開け、車内に身を乗り出して物を取ろうとした際に足が滑って捻挫、しかし、その時はそのまま車内から物を取り再び会場に行き、会場の様子を確認したあと再度車両に戻って車両を駐車場に移動。しかし、その後、足が不調になり治療を受けたため事故報告を入れたとするもの。でした。
これは事故後に再度車両から離れ、会場まで歩いて移動したあと戻ってきたわけですから、さすがに運行に起因するとは言い難く対象外との判断をしましたが、担当者は自分では判断することが出来ず弁護士に照会をかけて支払い対象外として問題ないと決定したそうです。
似たような事故はほかにもあり、このあたりが微妙ですが、たとえばこの事故の場合、事故が会場に行く前ではなく会場から戻ってきて駐車場に移動させる時の事故発生であれば、あるいは会場から帰る際に駐車場に戻って車両に乗り込む前の事故であったとしたら支払い対象なると判断出来るものと思います。
このようなことで、人身傷害保険についても様々な事故態様があるわけですが、「人身傷害保険について」にも書きましたようにこの保険は補償範囲が広いため、なにかの時に役立つ保険といって良いでしょう。
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